臨時教育審議会 ―その提言と教育改革の展開

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渡部 蓊 著

教育開発研究所 『教職研究』 2007年4月号
青木栄一 (国立教育政策研究所研究員)

 

教育改革研究に必要な視点

臨教審(臨時教育審議会)をご存じだろうか。臨教審は1984年に中曾根康弘首相(当時)が設置した内閣直属の審議会であり、4次にわたる答申を提出し、1987年に解散した。この審議会は法律により設置され、委員は国会で議決を経て任命された。この政治的・行政的に高度な設置形態は、戦後直後に設置された教育刷新委員会に次いで2度目だった(それ以降の事例はない)。

臨教審は教育の自由化を提言するなど世論を喚起し、答申では個性の重視、生涯学習体系への移行、国際化・情報化など変化への対応(本書九頁)といった提言を行ったが、実現したものはそれほど多くなく、ある研究によれば[失敗」であったという(レオナード・ショッパ著/小川正人監訳『日本の教育政策過程』三省堂)。

ところで、1990年代後半から開始され、今日まで続く教育改革は第三の教育改革と呼ばれているが、実は臨教審も「第三の教育改革」を標傍した。そのため、90年代後半以降の教育改革の源流が臨教審であり、それ以降、教育改革が継続しているという理解が最近では一般的となっている。

本書は、この臨教審の審議過程、答申に至る関係者の動向、その後の対応状況などをまとめたものである。本書の最大の特徴は、著者の前著『教育行政』と同様に、国会答弁、審議会答申、公式文書、関連報告書、通知・通達からの長大な引用を多用するところにある(前著については、高橋寛人氏による本誌2005年1月号掲載の書評を参照)。

年表が数多く掲載されていることも含め、本書は教育改革がこれまでどのように進められてきたかを理解するための素材が多く盛り込まれている。最近はインターネット上に政府審議会の議事録が即時掲載されるようになっているが、臨教審の時期の資料はそれほどネット上にはなく、本書の資料的価値は高い。今回は審議会に焦点を当てたこともあり、審議の議題や意見陳述を行った団体名といったものも数多く紹介されている。

このように、答申文のほかの資料も引用するのは、審議会の答申が委員や行政組織だけでつくられるのではなく、多様な意見が反映されるものであるという著者の認識が背景にあると考えられる(こういう政策過程の認識方法を多元主義という)。

評者も最近教育改革の政策過程に関する歴史分析に着手したこともあり、本書から研究上の関心を喚起された。ある改革を理解する際に、前後の類似の改革との比較や連続性を重視することは大切なことであるが、同時に相違点も考慮する必要がある。このことが本書のメッセージである。

まず、90年代後半以降の教育改革でみられた改革アイディアのすべてが臨教審由来のものではない、という記述である(84〜85頁)。たしかに、どちらも第三の教育改革と位置づけられているが、それぞれの改革の時代状況(政治状況・社会経済状況)は異なる。実は臨教審も過去の中教審の四六答申「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について」(1971年)との類似性が指摘されることがある。四六答申も第三の教育改革を標傍していたからである(これまでに3回も第三の教育改革が試みられたということになる)。本書第2章の記述は、学校体系改革を素材にして、臨教審と四六答申の相違点を析出している。

本書は戦後の教育改革の流れを適切に理解するための有用な羅針盤であるといえるだろう。

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