丹羽文雄と田村泰次郎

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濱川勝彦・半田美永・秦 昌弘・尾西康充 編著

昭和文学会 『昭和文学研究』 第55集(2007年9月号)
山岸郁子

〈作家の作品の深層にある故郷〉である四日市、という共通項の下に三重大学で開催された両作家のシンポジウムから発展した論集である。各8本(計16本)の論究と、研究史、年譜が収められており、大変充実した内容から構成されている。

なぜこの二作家に対し戦後多くの批評家があそこまで批判的な論陣を張らねばならなかったのか、その理由を考察することによって戦後啓蒙としての文学的言説に対する期待のよせ方も見えてくるのではないだろうか。

高橋昌子「遡源の回避―丹羽文雄初期作品の構造」、高津祐典「田村泰次郎の評価を考える―雑誌「世界文化」と「肉体の悪魔」において論及されているように彼らの言説が〈時代を渉ってゆく多くの日本人に通有のもの〉であったからこそ、批判的な言説でそれらを覆わねばならなかったのに違いない。丹羽が中村光夫の「風俗小説論」に対して憤懣を重ねていくが、まず主体性の再構築ありきといった戦後批評の問題点をここから逆にあぶりだすことができよう。

今後さらに資料のデータべースが構築され、二作家の研究が牽引、活性化されていくことによって戦前・戦後の文学地図が読み替えられる可能性をも感じさせる1冊となっている。

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