丹羽文雄と田村泰次郎

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濱川勝彦・半田美永・秦 昌弘・尾西康充 編著

至文堂 『国文学 解釈と鑑賞』 2007年8月号
井上三朗 (山口大学教授)

本書は三重県出身の丹羽文雄と田村泰光郎にかんする研究書である。

本書は2部に分かれ、前半部は丹羽文雄にかかわる8篇の論考から成り立つ。最初の「遡源の回避」は、丹羽の初期作品の人物たちの「根なし思考」が作品の構造におよぼす影響を考察している。2番目の「丹羽文雄『勤王屆出』試論」は、丹羽の最初の歴史小説を、それが依拠する史料と比較しつつ分析している。3番目の「丹羽文雄『蛇と鳩』論」では、丹羽が新興宗教を風刺的に批判するだけではなく、自身の宗教観から新興宗教を検討し、その救済を描き、問題と意義を示したことが論じられている。4番目の「丹羽文雄『青麦』私論」は、主人公如哉の息子鈴鹿に焦点を合わせ、鈴鹿の成長過程をたどっている。5番目の「丹羽文雄のミニマリズム」は、へミングウェイに共感する丹羽の戦後の作品における、ミニマル・リアリズムの手法を調査している。6番目の「丹羽文雄『親鸞』における二つの問題」では、親鷲の、六角堂参籠における夢告と悪人正機の説にたいする丹羽の見解が吟味されている。7番目の「丹羽文雄試論」は、丹羽の生家崇顕寺の寺族史と彼の宗教観を問題にしている。最後の「『文学者』時代の瀬戸内晴美」は、丹羽の主宰する同人誌、『文学者』時代の瀬戸内の文学活動を明らかにしている。

本書の後半部分には、田村泰次郎にかんする8篇の論文が収録されている。最初の「田村泰次郎試論」は、文芸復興期前後の田村への横光利一の影響関係を考究している。2番目の「田村泰次郎の戦場小説」は、田村の戦争小説観を踏まえながら、『肉体の悪魔』らの戦場小説を検討している。3番目の「『田村泰次郎』の評価を考える」は、『肉体の悪魔にたいする発表当時の評価と、そこから漏れた読みとを示している。4番目の「田村泰光郎『渇く日日』論」は、自筆原稿と照合しつつ作品を読解するとともに、田村の小説の舞台となった中国河北省保定市付近を著者が訪問した体験を綴っている。5番目の「『救済』される女たち」は、被占領下の検閲制度とからめて、『肉体の門』の舞台・映画脚本と原作とを比較している。6番目の「肉体文学新論」は、田村の肉体文学の実相を、戦場での兵士の行動や復員兵の心情を描いた作品をもとに検証している。7番目の「田村泰次郎とカストリ雑誌」では、カストリ雑話での田村の活動が浮き彫りにされている。最後の「田村泰次郎文庫の日記と書簡」は、同文庫が所有する若干の重要な資料(日記と書簡)を紹介したものである。

以上が本書の内容である。末尾には2人の作家の研究史、年譜が付されている。本書は、この2人を研究する際、必読の文献である。

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