英学の時代 ―その点景

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高橋俊昭 著

『日本英学史学会報』 No.115(2008年5月1日)
高梨健吉 (慶應義塾大学名誉教授・日本英学史)

待望の書が刊行された。英学史学会などで発表したものを一本にまとめたものである。中村正直研究が中心で、幕末に始まる英学の時代を興味深く描く。幸いにも成蹊学園には中村正直文庫があり、著者はその貴重な蔵書を充分に活用できた。中村正直の英語学者の苦心をうかがうことができる。

第二部は著者の郷里秋田の英学を紹介する。明治12 年に、有名な宣教師カラザス(カロザース)は招かれて秋田師範で英語を教える。彼はさらに一般民衆の啓蒙運動や新聞によって民権運動を応援する。しかし三年の任期を終えて帰るとき、事件がおきる。寄宿先の娘の自殺である。自殺とされているが、謎めいている。悲恋の結果なのかどうか、ミステリーを読む思いがする。

第三部は七年制高校における英語科について解説がある。一典型として成蹊高校をとりあげている。当事者の解説は明快である。

第四部は米国人の見た幕末日本の素顔である。ニューヨークの雑誌に掲載されたものである。類書に見られない興味深い観察が手紙や日記の形式で伝えられる。ていねいな翻訳で、各章末の注釈も適切で親切である。

本書の講成は中村正直の英学を中核としてニューヨークッ子の江戸見物や秋田女物語などがまじって英学の時代を生彩あるものとしている。なお巻頭を飾る序文は、英文学界の老翁清水護氏によるもので簡潔に英学の時代をまとめてある。

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