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市川昭午 著

A5判・上製・384頁
定価(本体3,800円+税)

ISBN978-4-284-10333-6
2011年9月 

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*推薦* 広田照幸 (教育社会学者)

我が国はいかなる国家を目指すべきか?
そのためにはどのような愛国心が求められるのか?

近年、外には経済・産業のグローバル化と国際社会の不安定化、内には社会格差の拡大と社会不安の増大が進んでいる。そうした中で右傾化を憂える声と公共精神の欠如を嘆く声が交錯しながら日増しに大きくなる今日、愛国心がどうあるべきかが改めて問われている。 本書は、このような状況を踏まえ、戦後の我が国における愛国心論の変遷と愛国心にまつわる語義・概念の検討、ナショナリズム論、国家論・国際関係論、道徳教育論の考究などを通じた広い視点から、愛国心をめぐる諸問題を多角的に究明するものである。

【目次】

はしがき

第1章 戦後日本の愛国心論
 1 戦後の愛国心論  2 “新しい”愛国心  3 “忠君愛国”の解体
 4 愛国心の基盤整備  5 愛国心論の再興  6 平成のナショナリズム
 7 愛国心論の新段階

第2章 愛国心とは何か
 1 愛国心という難問  2 愛国心を問い直す  3 法令・詔勅上の愛国心
 4 憂国・報国・殉国・護国  5 日本及び日本人  6 愛国心とパトリオティズム
 7 国民意識の衰退

第3章 ネーションとナショナリズム
 1 ナショナリズムとは何か  2 ネーションの概念  3 ネーションの形成
 4 ナショナリズムの発達  5 ナショナリズムの現在  6 ナショナリズムの再生

第4章 国民国家と国際関係
 1 国民国家の誕生  2 国家否定の思想  3 世界政府と世界連邦
 4 国際機構の機能不全  5 広域国家としての帝国  6 地域共同体の形成
 7 東アジア共同体の可能性  8 国民国家の行方

第5章 愛国心の教育
 1 期待される愛国心  2 愛国心の法制化  3 教育基本法の改正
 4 国民統合と国旗・国歌  5 万世一系論と単一民族論
 6 愛国心教育の重要性  7 愛国心教育の困難性

おわりに――愛国心論の展望

あとがき


【著者略歴】

市川 昭午 (いちかわ しょうご)

1930年長野県生まれ。東京大学教養学部卒業。北海道大学助教授、筑波大学教授、国立教育研究所次長、国立学校財務センター研究部長などを歴任。国立教育政策研究所名誉所員、国立大学財務・経営センター名誉教授。

編著書に『学校管理運営の組織論――現代教育の組織論的研究』『専門職としての教師』(明治図書出版)、『教育行政の理論と構造』『生涯教育の理論と構造』『教育システムの日本的特質――外国人がみた日本の教育』『日本の教育 第6巻 教育改革の理論と構造』『臨教審以後の教育改革』『未来形の教育――21世紀の教育を考える』『教育基本法を考える――心を法律で律すべきか』『教育の私事化と公教育の解体――義務教育と私学教育』『教育基本法改正論争史――改正で教育はどうなる』(教育開発研究所)、『教育サービスと行財政』(ぎょうせい)、『高等教育の変貌と財政』『未来形の大学』(玉川大学出版部)、『教育政策研究五十年――体験的研究入門』『リーディングス日本の教育と社会 第4巻 教育基本法』『資料で読む戦後日本と愛国心』(日本図書センター)などがある。

【推薦】

挑発的な本である。愛国心教育をめぐる多様な立場(推進派/反対派/静観派/放棄派)のいずれにも与せず、そもそも愛国心をどうみるべきかという問いに立ち戻り、その多様な見方の起源や変容を整理しつつ、淡々とした筆致で問題の本質を鋭く描き出している。愛国心や愛国心教育についてどう考えるかについて、どんな立場に立つ読者でも、本書の記述の中から、自分の信念や主張の痛いところをついてくる指摘を発見するはずである。逆にいうと、どんな立場の人でも、著者が本書のあちこちに仕掛けた問いかけに、深く考え込まざるをえないだろう、ということである。どんな立場であれ、その立場に立つことによって見えなくなっているもの/見ないようにしているものが何であるのかについて、気づかされる本だといえる。

愛国心と愛国心教育をめぐる多様な考え方を歴史的・社会的背景から論じ起こす、その射程は広く深い。秀逸な現代社会論、日本社会論としても読むことができる。過去と現代・未来を行きつ戻りつして考察した末、著者は、原理的に/現実的に見て、決着のつかない問題なので、愛国心について論じ続けるしかない、と結論づける。「それは民主主義国家に生きる市民として政治的義務に他ならない」と。――重い結論である。本書は、愛国心の要不要や愛国心教育の是非について、より冷静に、より賢明に議論するために、多様な立場の人にぜひ手に取っていただきたい本である。

広田照幸 (教育社会学者)

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