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立石洋子 著

A5判・上製・344頁
定価5,040円(本体4,800円+税)

ISBN978-4-284-10330-5
2011年11月

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*推薦* 塩川伸明 (政治学者)

広大な領土と多民族を包摂したソ連では、マルクス主義を理念的基盤とすると同時に、諸民族をいかに国民統合していくかが重要な政治課題になった。本書は、「国民史」の形成という観点からソ連史を分析し、その過程で政治家と歴史家たちが愛国主義と国際主義をいかに調和させるかという難問に直面する過程を詳細に跡付けた。ソ連史研究に新境地を切り開くだけでなく、国民統合と歴史認識という普遍的問題の分析にも貴重な事例研究を提供する画期的な意欲作である。

【目次】

序 章
 第一節 国民史描写と国民統合
 第二節 研究史の整理
 第三節 本書の課題

第一章 ソ連初期の歴史学と歴史教育
 第一節 十月革命とソ連マルクス主義史学の誕生
 第二節 ソ連初期の歴史教育
 第三節 「ブルジョア歴史家」と十月革命
 小 括

第二章 歴史教育改革の始まり
 第一節 教育改革と歴史教育
 第二節 新しい歴史教育の狙い
 第三節 国民史教育に関する決定
 第四節 革命前の歴史教科書の利用
 小 括

第三章 「国民史」の模索――ソ連邦史標準教科書の作成
 第一節 初等教育用ソ連邦史教科書コンクールの開催
 第二節 教科書コンクールの審査
 第三節 初等教育用ソ連邦史標準教科書の出版
 第四節 ポクロフスキーに対する公的批判
 小 括

第四章 愛国主義とマルクス主義――独ソ戦前夜のソ連史研究
 第一節 独ソ戦前夜の歴史学と歴史教育
 第二節 対外戦争の描写の変化――ナポレオン戦争を中心に
 第三節 ソ連の諸民族の友好と「外敵」との戦い
 第四節 歴史上の統治者の再評価
 小 括

第五章 独ソ戦と自国史像をめぐる論争
 第一節 独ソ戦の勃発
 第二節 ロシア史の再評価の動きの拡大
 第三節 非ロシア諸民族史研究の展開
 第四節 ソ連邦史と共和国史の矛盾
 第五節 歴史学会議の開催
 第六節 一九四四年歴史学会議後の動向
 小 括

第六章 「ソヴェト愛国主義」の変容と自国史描写の転換
 第一節 民族主義に対する警戒の強まり
 第二節 「西欧跪拝」批判の始まり
 小 括

第七章 スターリン最末期のイデオロギー政策と歴史学
 第一節 イデオロギー統制の強まり―― 一九四八年一九四九年
 第二節 論争的テーマに関する統一的公式見解の形成―― 一九五〇年―一九五三年
 小 括

終 章
 第一節 ソ連における国民史
 結び

主要人名一覧文献目録

あとがき

人名索引事項索引


【著者略歴】

立石 洋子 (たていし ようこ)

2002年 香川大学法学部卒業
2004年 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了
2010年 東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)

著作:「スターリン期のソ連における民族史論争――歴史上の英雄の評価を中心に」『ロシア史研究』第78号、2006年/「ソ連における「国民史」の創造――1930年代の歴史教科書作成問題を手がかりに」『歴史学研究』第845号、2008年/「支配者の歴史を描く――ソ連の自国史像にみる植民地支配の描写の変遷」『地域研究』Vol.10、No.2、2010/「パンクラートヴァとタレル――スターリン期のソ連を生きた二人の歴史家の生涯」『アリーナ』第10号、2010年

【推薦】

歴史学と歴史教育が国民統合に大きな役割を果たすこと、それと関連して歴史認識問題が政治的な論争点となりやすいことは、近年の日本と諸隣国の関係からも明らかであり、これまでも多くの人々の注目を引いてきた。これが歴史と政治の双方に関わる論争点である以上、歴史学と政治学にまたがるアプローチが要請されるが、双方の観点を総合して綿密な議論を立てるのは容易なことではない。

本書の主題として扱われているソ連の場合、「国民国家」イデオロギーとは異なるイデオロギー(階級闘争論、帝国主義批判、国家死滅論など)を立脚点とし、また巨大な多民族国家だという点で、他の「国民国家」と顕著に異なる特徴があったが、それでいながら、他の諸国と並び立つ存在として、それらと対抗するためにも「国民統合」の課題を抱えこむという複雑な状況におかれていた。こうした事情から、ソ連という国は、歴史学と国民統合の関係について考える上できわめて特異な事例をなしている。

これまでのソ連史研究は、マルクス主義イデオロギーの当否や、その現実との乖離、理念からの逸脱などといった側面に関心を集中してきた。その反面、特異な形で「国民」形成の課題に取り組んだ政治家と歴史家たちがどのようなディレンマに直面したのか、また歴史家たちが政治権力とのあいだに際どい緊張関係をはらみつつ、どのようなドラマを演じてきたのかといった問題にはあまり目が向けられてこなかった。

立石洋子氏の著作『国民統合と歴史学――スターリン期ソ連における「国民史」論争』は、膨大な一次資料の渉猟に立って、この未開拓の問題領域にはじめて正面から鍬を入れた力作であり、ソ連史に斬新な境地を切り拓くと同時に、《国民統合と歴史学・歴史教育》という一般的な問題についても独自の角度から貢献するものである。ソ連の歴史に関心をもつ人はもとより、政治学や歴史研究に携わるさまざまな読者に広く読まれることを願ってやまない。

塩川伸明 (政治学者)

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