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和田 健 著

A5判・上製・304頁
定価(本体5,200円+税)

ISBN978-4-284-10374-9
2012年12月

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農村で新たに創造されてきた協業のあり方を歴史的文脈から考察する!

高度経済成長期における日本の農業は、拡大する市場の流通にいかに向き合うかで生産効率を上げ産地化を図ってきた。しかし利益至上主義だけで、農の担い手は動いているのだろうか。流通に向き合うなかで「隠れた連帯」「意外の拘束」となる旧来のむらづきあいが大きく絡んでくることもあるのではないか。本書は、農業の近代化が加速した時代における収穫物の流通に関わる協業について、三つの民俗誌(エピソ―ド)から検討を試み、必ずしも非合理では括れない農の担い手同士のつながりから小さな歴史の一端を示す。

【目次】

はじめに

序 章 本書の課題設定と目的―農村の生産と流通をめぐる労働を記述する前に―
 1. 民俗学の社会研究で何が見たいのか?―個人と現在的状況について―
 2. 高度経済成長下の問題・民俗の変貌―効率、合理性を労働から考える前に―
 3. ポストハ―ベスト技術・収穫物の「商品」化―流通をめぐる労働のあり方と民俗を書く前に―
 4. 本書でめざしたいこと―協同労働をめぐる民俗誌の記述について―

第1章 協同労働概念の更新と出荷行為の対象化

第1節 民俗学における協同労働慣行概念の学史的検討
     ―「協業関係」「協働」概念への連続性をめざして―
 1.「商品」としての青果物を作る農家・農村の協同労働
 2. 民俗学的視点から捉えようとした労働組織の現在的意義―柳田國男の視点から―
 3. 柳田以降の民俗学における協同労働慣行研究とその成果
 4. 協同労働慣行概念の限界―「協業関係」の提示、そして「協働」との関わり―
第2節 農業近代化論批判の再評価―守田志郎の指摘から―
 1. 守田志郎の部落―むらへの視点
 2. 効率性、規格化への疑念
 3. むらと農協の対等性
第3節 小括と本稿のねらい
 1. 民俗学が見てきた労働の協業・守田が見てきたむらの属人性
 2. 対象としたい二地域の民俗誌とその構成

第2章 それはひとつの橋から始まった―産地としての成功と葛藤の話―

第1節 大規模産地化した農村の労働と協業関係―茨城県坂東市を例として―
 1. 調査地概観
 2. 岩井市農業協同組合園芸部とその生産計画について
 3. 昭和三〇年代に劇的に変わった生産暦と農作業
 [断章1 ネギ剥きする老夫婦・青果物市況で腕組むおじさん]
第2節 エピソ―ド1 流通の統合にのったむら―木間ヶ瀬集落の事例―
 1. 調査地概観
 2. 木間ヶ瀬集落の親族関係の展開
 3. 木間ヶ瀬集落の形成過程―飛び地独立した集落―
 4. 木間ヶ瀬集落独自の出荷組合マルキの誕生から「園芸部」合併へ
 [断章2 むらを引っ張るということ]
第3節 エピソ―ド2 流通から離反したむら―下出島集落の事例―
 1. 系譜内の諸関係 
 2.「園芸部」への統合と分離―反「園芸部」グル―プ、マルシマの結成―
 [断章3 「頼みもいいし、無理も利く」そのつきあいのあり方と産地化]

第3章 青年会試作集団からの始まり―大規模産地化しない協業―

第1節 収穫後における検査・流通の選択と農協の関わり―茨城県牛久市を例として―
 1. 調査地概観
 2. 旧牛久市農協の合併、その経緯―理事決定のプロセスを通じて―
 3. 生産部会の活動
 4. 栽培・集出荷の態様
 5. まとめ
 [断章4 寄合、区長をやって理事だ!]
第2節 エピソ―ド3 大規模産地化を選ばなかったむら―牛久市下根集落の事例―
 1. 調査地の社会的環境
 2. ひとつの「共有地」からの始まり
   ―青年会活動から出荷組合結成をめぐる協業関係の成立―
 3. 甘藷をめぐる協業関係の発展―農協の合併、キャリングの導入―
 4.「甘藷出荷組織」から「産地直売」への拡大―直販所への拡大と葛藤―

 [断章5 「みんな同じには作れない」甘藷作りの名人、吉川稔さんとの出会い]

終 章 三つの民俗誌から見た労働の協業と社会

第1節 三つの民俗誌から読み取れること
第2節 まとめと課題
 1. むらにおいて協業はどういうものなのか
 2. 今後の課題

引用・参考文献一覧
あとがき
索引


【著者略歴】

和田 健 (わだ けん)

1967年 大阪府生まれ。1997年 筑波大学大学院博士課程歴史人類学研究科単位取得退学。筑波大学歴史人類学系助手を経て、現在、千葉大学国際教育センタ―・地域観光創造センタ―・大学院人文社会科学研究科准教授。博士(文学)。主な著書に、『日本の民俗6 村の暮らし』(共著、吉川弘文館、2008年)、『海の暮らしと房総の民俗』(千葉日報社、2009年)、『歴博フォ―ラム 民俗学的想像力』(共著、せりか書房、2009年)がある。

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