
山田恵吾 著
A5判・上製・312頁
定価5,040円(本体4,800円+税)
ISBN978-4-284-10297-1
2010年11月
なぜ今、日本の教師たちはこんなにも追いつめられているのか? 教育現場の閉塞感はどこから来ているのか?
これまでの教育史はその原因を、強固な文部行政による自由な教育研究と実践への「抑圧・弾圧」に求めてきた。しかし、そのような対立図式では、「運動」に関わらない多くの教員の思想と行動を捉えることはできない。本書は、丹念に掘り起こした地方史料に基づいて、対立の背後で着実な結び付きを見せた地方学務当局との関係から、近代日本の教員社会の軌跡を捉える。「大正自由教育」「昭和初期郷土教育」「総力戦体制下の教育」の通説を捉え直した意欲作!
【目次】
序 章
第一節 問題の所在
第二節 研究史における到達点と問題点
一 「大正期」と「昭和戦前期」の連続・非連続
―『講座日本教育史』(一九八四年)の研究史叙述を手掛かりに―
二 新たな研究視角からの試み― 一九八四年以降の研究動向―
三 問題点の抽出
第三節 本書の課題と方法
第四節 本書の構成
第一章 千葉県学務当局の「自由教育」に対する「支持」と「統制
― 一九二〇年代前半における地方教育行政の基盤―
序
第一節 千葉県学務当局の附小「自由教育」に対する「支持」の内実
第二節 教育行政基盤としての郡学務当局
第三節 教育行政基盤としての千葉県教育会
一 千葉県教育会に対する諮問事項
二 諮問をめぐる学務当局と教員社会との攻防
第四節 教員社会の教育研究空間―実践と研究の基盤
一 地域における教育研究
二 附属小学校の役割
第五節 学務当局の附小「自由教育」に対する「統制」の意味
―「一任」から監督指導」へ―
小 括
第二章 一九二六年地方官官制改正と「自由教育」への統制
序
第一節 千葉県教育行政体制の整備・強化
一 千葉県行政の陣容
二 県教育行政の自律性
第二節 郡役所廃止と千葉県学務当局の課題
一 郡長の職務権限の帰属
二 学務当局の教育状況認識
第三節 附小「自由教育」に対する統制
一 学務当局の附小「自由教育」対策への始動
二 大多喜中学事件と学務当局の対応
三 千葉県教育会主事選挙と附小「自由教育」
第四節 「小学校教育改善要項」の制定
一 「小学校教育改善要項」の制定過程
二 「小学校教育改善要項」の眼目
小 括
第三章 「自由教育」統制策としての郷土教育の展開
― 千葉県学務当局の「教育の郷土化」施策を中心に―
序
第一節 千葉県学務当局の教育状況認識と「教育の郷土化」
一 「小学校教育改善要項」と「教育の郷土化」
二 学校経営研究会における「教育の郷土化」の具体化
第二節 千葉県郷土教育展覧会の策定過程―「教育の郷土化」の具体的方案―
一 千葉県郷土教育展覧会の策定
二 「教育の郷土化」の具体的方案の明示
―「教育の郷土化に就いて」の編纂―
第三節 千葉県郷土教育展覧会の開催
一 展覧会の開催状況
二 学務当局による指導
第四節 「教育の郷土化」への取り組み
―長生郡豊岡尋常高等小学校を事例に―
小 括
第四章 千葉県教育会会長選任問題
― 千葉県学務当局の教育会改革―
序
第一節 千葉県学務当局の課題と千葉県教育会
一 郡役所廃止後の学務当局の課題
二 一九二七年千葉県教育会主事選挙
三 知事更迭問題
第二節 千葉県教育会の政党化と官僚化
一 千葉県教育会の指導体制の改革―特選主事と各郡割当主事―
二 会員増員運動
第三節 千葉県教育会会長選任問題
一 会長選任問題
二 主事資格剥奪―木村康哉に対する異動命令―
三 官選派と民選派の対立
第四節 千葉県教育会改革―執行部の脱政党化―
一 特選主事への辞任要求
二 千葉県教育会定款の改正
小 括
第五章 千葉県小学教育研究所創設にみる教員統制
序
第一節 千葉県学務当局の「思想問題」認識
―長野県「教員赤化事件」直後に於ける―
第二節 小学教育研究所創設の意図
一 教員人事行政の課題
二 教員社会に対する指導力強化
第三節 小学教育研究所設置案と岡田文秀知事
第四節 小学教育研究所の設置
一 入所基準の設定
二 研究生の活動第五節校長の詮衡と養成をめぐる論議
第五節 校長の詮衡と養成をめぐる議論
第六節 文部省の教員「思想対策」における小学教育研究所の位置
小 括
第六章 総力戦体制下の教員統制の構図
―『千葉県初等教育綱領』の制定・実施過程
序
第一節 千葉県小学校長会と「教学刷新」
一 千葉県小学校長会について
二 「教学刷新」から「千葉県初等教育綱領」へ
第二節 「千葉県初等教育綱領」の制定過程
第三節 「千葉県初等教育綱領」の実施過程
一 「綱領」の具体化と校長会
二 指定研究校制
第四節 「自由教育」と「千葉県初等教育綱領」の間
―千葉県教育界の自己認識―
第五節 統制の構図―木村康哉の「神棚教育」批判―
小 括
結 章
第一節 各章のまとめ
第二節 本研究の意義
一 近代日本教員史の認識枠組みに即して―「統制」概念の有効性―
二 教員の専門性と自律性に即して―木村康哉と教員社会―
資料編
あとがき
索 引
【著者略歴】
山田 恵吾 (やまだ けいご)
1968年静岡市に生まれる。1998年筑波大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。筑波大学教育学系助手等を経て、現在、茨城大学教育学部准教授。博士(教育学)。
著書:『教育史からみる学校・教師・人間像』(共編著、梓出版社、2005年)/『教育学の教科書―教育を考えるための12章―』(共編著、文化書房博文社、2008年)など。